ウェブアクセシビリティについて、デジタル庁の考え方、JISとWCAGの関係、達成すべきこと、開発と広報での実践プロセス、などについてまとめました。
デジタル庁が示すウェブアクセシビリティ
デジタル庁はウェブアクセシビリティを、WEBで提供される情報やサービスに「到達し利用できる」状態と定め、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」というミッションの実現に欠かせない取り組みとして位置づけています。
※この記事はデジタル庁の公式資料をもとにしています。個別の適合判断は状況によって変わります。
「アクセシビリティ」は「近づくことができる」という意味で、「ウェブや情報そのものへ到達できること」や「製品やサービスを利用できること」という意味でも使われます。 ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック|デジタル庁
このガイドブックは、行政手続のデジタル化やシステム開発を担う行政担当者や受託事業者、ウェブアクセシビリティに取り組む民間事業者を対象としています。
資料
ウェブアクセシビリティは障害のある人だけのものではない
ウェブアクセシビリティの対象は、障害のある人に限らず、高齢者や一時的に不自由な状態にある人も含みます。
WEBの標準化団体W3Cを創設したティム・バーナーズ=リーは、次の言葉を残しています。
The power of the Web is in its universality. Access by everyone regardless of disability is an essential aspect.
ウェブの持つパワーはそのユニバーサル性にある。 障害の有無に関係なく、誰もがアクセスできることがウェブの本質なのである。 ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック|デジタル庁
具体的な対象者
- 視覚障害・聴覚障害・盲ろう・上肢障害・発達障害や学習障害・知的障害・色覚特性のある人(日本人男性の20人に1人が色覚特性を持つとされる)
- 高齢者(加齢によって視力や聴力が下がる)
- 一時的または状況的な障害がある状態の人(イヤホンを忘れた、眼鏡を忘れた、手を怪我してマウスが使えない、など)
障害者・高齢者に関する統計
内閣府・総務省の調査によると、障害や加齢で不自由を感じる人は多くいます。
- 身体障害者手帳の所持者は415.9万人、療育手帳か精神障害者保健福祉手帳の所持者を含めると610万人(重複を除く)
- 障害者の総数は推計で1,164.6万人
- 65歳以上人口は3,624万人(総人口の29.3%)、75歳以上人口は2,078万人(2024年10月1日時点)
- 2070年には2.6人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上になると推計
ウェブアクセシビリティの法律上の位置付け
2024年4月1日に改正障害者差別解消法が施行され、事業者による障害者への「合理的配慮」が義務化されました。
ウェブアクセシビリティへの取り組みは、この「合理的配慮」を提供するための環境の整備として、努力義務が課されています。
努力義務として定義されているので、もっとしっかりやっていきたいです。
世界標準のガイドラインと日本の規格
WEBコンテンツのアクセシビリティに関する世界標準は、W3Cが策定する「WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)」です。
- 国際規格のISOでは、WCAG 2.0をそのまま採用した「ISO/IEC 40500:2012」が2012年に発行されました
- 日本では、この国際規格に対応する「JIS X 8341-3」が2016年に改正されました(JIS X 8341-3:2016)
日本ではWAICという団体が運営している
日本では、WAIC(ウェブアクセシビリティ基盤委員会)という団体が、ガイドラインの普及を行っています。主な役割は以下です。
- 「JIS X 8341-3」の普及・解説
- 「WCAG」の日本語訳
- JISを実運用するための文書整備
- 「実装チェックリスト」策定
- 「対応度表記ガイドライン(準拠/一部準拠/配慮)」策定
- 「試験実施ガイドライン」策定
- W3Cとの国内窓口
WCGA達成基準(適合レベル)は3段階ある
WCAGは「知覚可能」「操作可能」「理解可能」「堅牢」の4つの原則と、12のガイドライン、61の達成基準で構成され、適合レベルは次の3段階です。
- A:基本的なレベル
- AA:その上の基準まで満たしたレベル
- AAA:もっとも厳しいレベル(コンテンツによっては全項目を満たせないため、AAA準拠を目標にすることは推奨されていません)
総務省では「AA」への適合を推奨しており、他国の法律やポリシーでも「AA」が基準になっています。
出典:みんなの公共サイト運用ガイドライン(2024年版)|総務省
JIS対応度は3種類ある
WAICは、「JIS X 8341-3:2016」への対応度として、次の3つを定義しています。
| 対応度 | 方針の提示・公開 | 試験の実施 | 結果の公開 |
|---|---|---|---|
| 準拠 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 一部準拠 | 必要 | 必要 | 任意 |
| 配慮 | 必要 | 不要 | 不要 |
- 準拠:試験で達成基準すべてを満たしている
- 一部準拠:達成基準の一部を満たしている
- 配慮:試験の実施と公開の有無を問わず使える
出典:ウェブコンテンツのJIS X 8341-3:2016対応度表記ガイドライン|WAIC
ウェブアクセシビリティの試験とは
物理的な場所や会場はなく、サイトの運営者や事業者が、対象のWEBページそのものに対し机上で実施する試験です。
WAICが定める「達成基準チェックリスト/実装チェックリスト」に照らして 1項目ずつ 適合 / 不適合 / 非適用 を記録していきます。
資格や免許は不要ですが、専門知識が必要なため、専門ベンダーや外部の機関などに依頼して実施することも多いようです。
ウェブアクセシビリティで達成すべきこと
デジタル庁では、達成すべきことを重要度に応じて4区分に分けています。
重大:達成しないと重大な悪影響を及ぼすこと
「非干渉」と呼ばれる、利用者が他の部分へアクセスすることを妨げない状態のための基準です。
- 音声・動画の自動再生をさせない(3秒を超える場合は利用者が止められるようにする)
- キーボードトラップを作らない(一度フォーカスしたら抜け出せない状態を避ける)
- 1秒に3回を超える光の点滅をさせない(光感受性発作を防ぐため)
- スライドショーなど自動で切り替わるコンテンツに、一時停止・停止・非表示の機能を付ける
必須:必ず達成すべきこと
- 画像に代替テキストを付与する(長さは80字が目安、装飾目的は
alt="") - キーボード操作だけですべての機能にアクセスできるようにする
- 操作に制限時間を設けない(設ける場合は延長・解除の手段を用意する)
- 色・太字・下線・拡大など単一の表現だけで情報を伝えない
- スクリーンリーダーで順に読み上げたときに、意味が通じる順序にする
- 見出し要素だけでセクションの内容がわかるようにする
- 文字と背景のコントラスト比を4.5:1以上(大きな文字は3:1以上)にする
- 文字を200%まで拡大しても重ならず見切れないようにする
- 文字コードはUTF-8を使う
- ページごとに内容を示すタイトルを付け、重複させない
- リンク先が単体で、または前後の文脈からわかるようにする
- ナビゲーションの順序・表記に一貫性を持たせる
- 同じ機能には同じラベル・説明を付ける
個別対応:状況に応じて確認すべきこと
コンテンツの種類によって、存在する場合とそうでない場合がある確認事項です。JIS X 8341-3:2016の試験では「非適用」という言葉を使います。
- 入力フォームのラベルとフォームコントロールを関連付け、エラーの箇所と回避方法を示す
- 音声・映像コンテンツにキャプションや音声解説を付ける
- アニメーションやスライドショーを一時停止・停止・非表示にできるようにする
- モーダルダイアログやポップアップなど、コンテンツの変化がスクリーンリーダーにも伝わるようにする
非推奨:導入に慎重な検討が必要なこと
- アクセシビリティ・オーバーレイなどのプラグイン
OSやブラウザの支援技術と機能が重複しやすく、HTMLの文書構造の補完や、代替コンテンツのない画像・動画への対応はできない場合が多いとされています。 - 文字サイズの変更・読み上げプラグイン
利用者はすでにOSやブラウザの支援技術を使っていることが多く、サイト固有の支援機能は他のサイトでは使えないため効果が限定的です。
スマホにはすでに支援技術が導入されている
iOSにはVoiceOver、AndroidにはTalkBackというスクリーンリーダーがOSの標準機能として搭載されており、文字サイズの拡大や色反転などの機能も提供されています。
WEBサイト側で適切にHTMLを書けば、利用者はこれらの支援技術でサイトを利用できます。
ボタンやリンクは指でタップする大きさに調整し、画面の一部が変化するUIには、HTMLの拡張仕様である「WAI-ARIA」を使って状態や挙動がスクリーンリーダーに伝わるようにする必要があります。
ウェブアクセシビリティの状態を確認する方法
ウェブアクセシビリティの状況は、チェックツールを使いつつ、人の目視・キーボード操作・スクリーンリーダーでの確認が必要です。
チェックツール
- Lighthouse
Google Chromeの開発者ツールに組み込まれています。アクセシビリティの監査を実行すると、点数と問題点が表示されます。 - axe DevTools
Chromeなどの拡張機能として追加し、ページ上で実行します。 - WAVE
問題のある箇所を画面に重ねて示す、WebAIMのツールです。 - miChecker
総務省が公開している無料のチェックツールです。 - HeadingsMap
見出しの構造を確認する拡張機能です。 - Colour Contrast Analyser
色のコントラストを測る専用ツールです。 - コントラスト比チェック
このサイト(まなびのすけ)のツールです。文字色と背景色を入れると、ブラウザ上でコントラスト比と WCAG 2.2 の合否を確認できます。
人間の目視や操作で確認する
チェックツールで見つけられる問題は、ウェブアクセシビリティの問題の2割から3割程度です。ウェブアクセシビリティは基本的に「人がチェックする必要がある」と考えましょう。 ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック|デジタル庁
デジタル庁が示す実践プロセス
ガイドブックでは、情報システムのサービス開発と、広報活動でのWEBを使った情報発信について、実践プロセスを示しています。
システム開発・サービス開発
- 設計段階からウェブアクセシビリティを想定する
- サービス設計書・仕様書に、アクセシビリティの適合レベルや対応度を指定しておく
- WEBサイトの規模によっては試験には時間がかかるため、サービスリリースまでの複数回の段階で試験を行うことが推奨されている
広報・情報発信
- 原稿作成の段階でアクセシビリティを想定する
- 代替テキストが必要なイラスト・図表を洗い出す
- PDFで発信する場合は、見出し・リスト・外部リンクのタグ付け、画像への代替テキスト付与、読み上げ順序の調整、言語設定などを行う
- 動画配信では字幕を提供し、可能であれば手話通訳を手配する
このサイトを簡易チェックしてみた
このサイトのトップページをChromeのLighthouseツールでチェックしたところ、以下のような結果になりました。
アクセシビリティはどちらもスコア100でした。
ChromeのLighthouseツールなら手軽にアクセシビリティチェックができます。ただし実際は、目視や利用の方が重要なので、あくまでも目安という感じです。
よくある質問(FAQ)
Q. 小さな個人サイトでも、ウェブアクセシビリティ対応は必要ですか?
対応の考え方は、規模に関係なく使えます。改正障害者差別解消法では、ウェブアクセシビリティが合理的配慮のための環境整備として努力義務に位置づけられています。まずは代替テキスト・見出しの構造・コントラストなどの基本から取り入れられます。
Q. どの適合レベルまで対応すればいいですか?
デジタル庁のガイドブックでも、JIS X 8341-3:2016のレベルAAに準拠することを目標にするのが標準的な対応としています。すべてを一度に満たせなくても、対応度は「準拠」だけでなく「一部準拠」「配慮」でも公開でき、問題箇所を把握して段階的に改善していく形で問題ありません。
Q. チェックツールだけで確認すれば十分ですか?
十分ではありません。デジタル庁のガイドブックによると、チェックツールで見つけられる問題は、達成基準の2割から3割程度です。読み上げ順序が自然か、代替テキストが適切かなどは、人の目視やキーボード操作、スクリーンリーダーでの確認が必要です。